水筒の金属臭の原因は何か。科学的根拠と対策を解説
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この記事でわかることは次の3つです。
- 金属臭の正体(研究で特定されています)
- 金属が溶け出しやすくなる3つの条件
- 今日からできる対策
買ったばかりの水筒でお茶を飲んだら、金属っぽいにおいがした。そんな経験をした方は多いと思います。
そのにおいが何なのか、体に害はないのか。気になるところです。
金属臭の正体は、金属そのもののにおいではない
意外なことに、鉄や銅は常温でほとんど気体になりません。においが鼻に届くには、空気中に飛ぶ物質が必要です。
つまり私たちが「金属のにおい」と感じているものは、金属そのものではないということです。
正体は、皮膚の脂と金属が反応してできる、別の物質でした。
人の皮膚に鉄が触れたときのにおいの主役は、1-オクテン-3-オン(きのこのようなにおいの物質)だと質量分析で確かめられました。皮膚の脂が酸化してできた物質に、金属から出た金属イオン(水に溶けて電気を帯びた金属の粒)が反応して生じます。
Dietmar Glindemann ほか「The Two Odors of Iron when Touched or Pickled」Angewandte Chemie International Edition 45巻42号 7006-7009(2006)。この物質を金属臭のもとと最初に特定したのは前年のLubranらで、2006年の研究は人の皮膚でも同じことが起きていると示したもの。
硬貨を触ったあとに手がにおうのも、同じ仕組みです。銅や真ちゅうでも似たにおいが報告されています。
水筒の中で同じことが起きているかを確かめた研究は、まだありません。ただ、飲み口には口が触れ、皮脂がつきます。同じ反応が起きていると考えるのは自然です。
金属が溶け出しやすくなる3つの条件
においのもとになる金属イオンは、使い方によって溶け出す量が変わります。
以下はステンレスの器具や食器を調べた試験の結果です。水筒そのものではありませんが、傾向をつかむ手がかりになります。
酸性の飲み物を入れたとき
スポーツドリンクやレモン系の飲み物に含まれるクエン酸(レモンなどの酸味のもと)は、金属を溶かしやすくします。
溶かし出す液体を変えて比べると、金属が溶け出す量はおおむね「水 < 酢酸 < クエン酸」の順に多くなりました。
河村葉子ほか「ステンレス製器具及び食器からの金属の溶出」食品衛生学雑誌 38巻3号 170-177(1997)
温度が高いとき
置いておく時間よりも、温度のほうが効きます。室温で一日置くより、熱い状態で30分置くほうが多く溶け出すことがあります。
ただし金属の種類によって差があり、この傾向がはっきり出たのはクロムでした。鉄では条件による差はほとんど見られませんでした。
新品のとき
新品の器具16点を調べた結果です。
| 金属 | 検出された数 | 検出量 |
|---|---|---|
| 鉄 | 16点すべて | 50〜1,110ppb |
| クロム | 16点中10点 | 5〜28ppb |
| ニッケル | 0点 | 検出されず |
| 鉛・カドミウム | 0点 | 検出されず |
河村ほか(1997)。ppb(ピーピービー)は10億分の1を表す単位で、ごくわずかな量です。試験は4%酢酸に30分。低い温度で使う7点は60℃、100℃前後で使う9点は95℃と、用途に応じて条件を分けています。鉄の「50〜1,110ppb」はこの2つを合わせた範囲で、下限の値は当時測定できた下限そのものです。
使い込むと溶け出す量は減る可能性が示されています。ただし同じ器具を追いかけた試験ではなく、新品と、半年から15年使われた別の器具を比べた結果です。
近年の研究では、繰り返し使っても数回で頭打ちになり、ゼロにはならないと報告されています。
ニッケルが心配な方へ
ニッケルは、金属アレルギーの原因として名前が挙がることの多い金属です。ステンレスにも含まれています。
先ほどの表では、そのニッケルが「検出されず」でした。ただ、これを「出ていない」と読むのは間違いです。
この試験の装置は、ごく少ない量のニッケルを見つけられませんでした。少なすぎて見えなかっただけで、無いことを確かめたわけではありません。論文にも、そう書かれています。
実際、同じ論文でも条件を変えるとニッケルは溶け出しています。もっと細かく測れる装置を使った近年の研究でも、長く加熱するとニッケルが出ることが分かりました。
河村ほか(1997)は、ニッケルを見つけられる下限が他の金属より高かったため検出されなかったと考えられる、条件を厳しくすれば溶け出しただろう、と論文中で述べている。近年の測定は Kristin D. Kamerud ほか「Stainless Steel Leaches Nickel and Chromium into Foods during Cooking」Journal of Agricultural and Food Chemistry 61巻39号 9495-9501(2013)。
ニッケルアレルギーがある方は、「ステンレスからは出ない」という前提で選ばないほうが安全です。
今日からできる3つのこと
においのもとが皮脂と金属の反応である以上、やることは「溶け出しにくくする」と「汚れを残さない」の2方向です。
新品は使う前に一度洗う
中性洗剤を薄めた水で、やわらかいスポンジを使って内側を軽く洗います。よくすすいで、自然に乾かしてください。
製造や輸送の途中で内面についた、ごく細かい汚れを落とすためです。
酸性・高温のものを入れっぱなしにしない
スポーツドリンクやレモン系の飲み物、熱いお湯を入れたまま何時間も置くのは避けましょう。
飲み終えたら、その日のうちに中身を空けて洗う。これだけで条件は大きく変わります。
飲み口とパッキンをとくに丁寧に洗う
においのもとが皮脂と金属の反応なら、口が直接触れる飲み口はいちばん重要な場所です。
パッキンは外せるものなら外して洗い、しっかり乾かしてください。
結局、どうすればいいのか
金属臭が気になったら、まず酸性の強い飲み物と熱い飲み物を長時間入れっぱなしにしないこと。そして飲み口とパッキンを含めて、毎回きちんと洗って乾かすことです。
においが強いこと自体は、そのまま危険を意味しません。1-オクテン-3-オンはごくわずかな量でもにおいを感じ取れる物質だからです。においの強さと、体への影響が問題になる量は別の話です。
それでも気になるにおいが続くなら、製品が食品衛生法に適合した検査を受けているかを確認したうえで、買い替えも選択肢になります。
においの出方は素材によっても変わります。チタンは金属イオンが溶け出しにくく、金属臭や味移りが起きにくいとされる素材です。絵彩は純チタン(他の金属をほとんど混ぜない、チタンだけの金属)を使い、内面は無塗装。塗膜が剥がれる心配もありません。
まとめ
金属臭の正体は、金属そのものではなく、皮膚の脂と金属イオンが反応してできる物質でした。
酸性・高温を避け、飲み口を含めてこまめに洗って乾かす。これが今できる一番の対策です。
参考文献
1. Dietmar Glindemann ほか「The Two Odors of Iron when Touched or Pickled: (Skin) Carbonyl Compounds and Organophosphines」Angewandte Chemie International Edition 45(42) 7006-7009(2006)
2. Michelle M. Lubran ほか「Identification of Metallic-Smelling 1-Octen-3-one and 1-Nonen-3-one from Solutions of Ferrous Sulfate」Journal of Agricultural and Food Chemistry 53(21)(2005)
3. 河村葉子ほか「ステンレス製器具及び食器からの金属の溶出」食品衛生学雑誌 38巻3号 170-177(1997)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi1960/38/3/38_3_170/_article/-char/ja/
4. Kristin D. Kamerud ほか「Stainless Steel Leaches Nickel and Chromium into Foods during Cooking」Journal of Agricultural and Food Chemistry 61(39) 9495-9501(2013)